「現場には目撃者と、頭部を殴られた被害者が居たッス!他に――」
「待った。目撃者が現場にいたのか」
「勿論ッス!通報者と目撃者は同一ッスからね!」
「…通報から、どれくらいの時間で現場に行ったんだ」
「そうッスね…大体、十分も掛からなかったと思うッス!全く、不敵な連中ッス!
管轄の側で違法カジノを開いてたとは!不届きッス!」
…十分、ね。微妙な時間だな。
「…ちなみに、被害者は撲殺でいいのか」
「そうッス!現場写真を見ていただきたいッス!
写真の隅になっちまったッスけど、凶器が映っているッス!」
先程気になった棒状のもの、か。
「此は何なんだ」
「火掻き棒ッスね」
「…なんだってそんなもんが、地下クラブにあるんだ」
「この地下クラブ、レイアウトに凝ってるッス!
被害者が死亡していた部屋は暖炉があって、
インテリアとして火掻き棒が置かれていたッス!
暖炉は使用できないように蓋がされているッスけど、火掻き棒は本物ッス!
指紋は発見されていないッスけど、被害者の血は確認できているッス!」
…指紋は無し、か。血液が付いているってことは、確かに凶器と見て良さそうだな。
「地下クラブの写真も提出するッス。暖炉もちゃんと映ってるッスよ!
見ての通り、争った形跡があるッス。
また、テーブルの上には二つのグラスとポーカーをした形跡もあるッス!
被害者が誰かと会っていたことは間違いないッス」
(法廷記録に、通報から到着までの時間情報をファイルした)
(法廷記録に、凶器の火掻き棒の情報をファイルした)
(法廷記録に、室内の様子の情報をファイルした)
「其処に残されていた手がかりを元に――」
「待った」
「………」
「………」
「べ、弁護人!黙らないで下さい!」
「失敬…流石に、踏み込むことに抵抗があったもんでな…」
「まぁ、気持ちは分からなくもないですが。
なんせ、貴方は「断らない弁護人」ですからな。
…胃が頑丈なようで何よりです」
……奇妙な心配をされてしまった。
「刑事。手がかり、というのは」
「幾つかあるッス!聞いて驚けッスよ!!
まずは、被告人の指紋ッス!現場の様々な場所に発見されてるッス!
現場に残されていたワインのグラスッス!
後は広げられたトランプにも付着していたッス!
部屋のドアノブにも付いていたッスよ!
他、随所に!拡散して!溢れかえってたッス!!」
……オンパレードじゃないか。
「何より決定的な証拠があるッス!」
「決定的?」
「そうッス!被害者がダイイングメッセージを残していたッス!」
「……!!」
なんだと!?法廷記録にも記載されていなかったぞ!!
「ダイイングメッセージ、ですか」
「此処に写真があるッス!証拠として提示するッス!」
(法廷記録に、ダイイングメッセージの写真をファイルした)
「此は…被害者の手ですね。先程の現場写真と同じ、腕時計が映っています。
そして…「ギンイロ」と…被害者の血文字で……!!」
文字を書いている方の手に…腕時計が填められているな。
……此は、ちょっと可笑しい。
何にせよ、情報収集も兼ねている。
分かりやすい矛盾から突きつけてみるか。
「其れが何よりの決め手ッス!!」
「……異議あり」
俺の声に、法廷が凍る。
……まぁ、この瞬間は嫌いじゃない。
「弁護人!」
「其奴が決定的な証拠だと?そんな筈が無い、な」
「うぅ…正直、アンタは怖いから苦手ッス…」
「被告人の名前は、「色嶋銀次」だ。其れがどうして、ギンイロになる?」
「!!??」
「ふっふっふっふ」
――まぁ、罠なんだろうな、という気はしていたぜ。亜内検事。
アンタがずっと黙ってるってのが、妙に怪しいんだ。
「確かに、被告人は「色嶋銀次」と言う名ですが、
裏社会には通り名という物が有るのですよ。我勢堂弁護士」
…どうして此奴は、得意げになれるんだ。
「我らが「ギンイロ」というメッセージで被告人に行き着いたのは、
その「ギンイロ」という名が、被告人の通り名であったからです!」
「と、通り名ですか?」
「なんせ違法カジノですからな、本名で呼び合うわけにはいかないのでしょう」
「…で、被告人は、「ギンイロ」が通り名、だと」
「その通り!名前の部分と名字から取ったのでしょう」
「…おい、色嶋。ちなみに、被害者の通り名は何だったんだ」
「ァン?彼奴は、「ポーカー」だったッスよ」
「成る程。賭け事…か」
「それもあるッスけど、彼奴弱かったんスよ、ポーカー。名前、マサルっつーのに」
つづく
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