なんやねんな、という人は「01」からお読み下さいませなのですよ。

続き、です！

[0回]

「これより、色嶋銀次の法廷を開廷します。
　其れでは、亜内検事、冒頭弁論をお願いします」

　白い髭の長い裁判長が、得意げに槌をふるう。
　其れを受けて、頭髪の薄い――…失敬、貫禄のあるが意見の検事が、口を開いた。

「はっ。事件は二日前、地下の裏クラブにて発生致しました。
　検察側が被告人が、被害者を殺害したものと主張します」

　と、亜内検事が此方を見た。そう言えば、この検事と会うのは久々だったな。

「我勢堂弁護士。お久しぶりですな」

　得意げに貧相な前髪を上げるのは止めていただきたいものだ。

「ええ。そうですな、なかなか此方に仕事が回ってこないものですから」

　…ちなみに俺はこの検事の、甲高い声がやや苦手だ。
　皮肉の一つでも、言いたくなってしまう。

「それに、どうやら俺が担当弁護士だと聞くと避ける検事も幾らか居るようだ」
「ふっふっふっふ」

　お、今日は引かないつもりか。
　何時もなら、この一発目で苦虫を噛み潰したような顔をするんだが。

「今日は私は一人で此処に立っているのではないのですよ！我勢堂弁護士！
　負けられない戦いが此処にある！！
　私は、見事被告人の有罪を勝ち取ってやりましょう！」

　随分意気込んでいるじゃないか――どうやら、隣に居る人間の所為か。
　検事バッチを付けている、臙脂のベストスーツの長髪。
　多分、男だな。良く顔が見えないが。
　つまり、後輩が見に来たから胸を張りたいと。
　しかも、“俺にまで依頼が回ってきた”案件だと高をくくったか。

「…な、何を不敵に笑っているのですかな！我勢堂弁護士！」
「いや、そんなつもりはないが」

　――詰めが甘いのが、貴様の良いところだとは流石に言えないか。

「それでは、検事側の一人目の証人をお願いします」
「イトノコギリ刑事を入廷させて下さい」

＊

「さて、イトノコギリ刑事」
「はッ！早速事件のあらましを説明するッス！」



証言開始
「事件が起こったの一昨日の深夜、郊外の地下クラブの一室ッス！」
「目撃者から通報があって、我々は現場に向かったッス！」
「現場には目撃者と、頭部を殴られた被害者が居たッス！
　怪しい人物は居なかったッス！」
「其処に残されていた手がかりを元に、被告人を逮捕したッス！」



「フム。現行犯逮捕ではなかった訳ですね」

　…手がかりを元に逮捕、だけの奴が俺まで回ってくるとは思えんが。
　まずは、情報を仕入れるつもりで尋問してみるか。

「それでは、弁護人、尋問をお願いします」


尋問開始
「事件が起こったのは一昨日の――」
「待った。地下クラブというのは、一体？」
「お？何ッスか。アンタ、興味があるのスか？なんか、自分より詳しそうッスけど」
「………情報が欲しいだけだ。さっさと証言しろ」
「ヒッ！だ、駄目ッスよ！アンタの眼力は一番危険ッス！」
「とにかく、証人。私も知りたいですな。地下鉄愛好会みたいなものでしょうか」
「い、いや、違うッス」

　裁判長の質問は何時ものようにズレているが、お陰で話はすんなり進みそうだな。

「簡単に言えば…違法カジノッスね」
「な…なんですと！」
「なんだと！？違法カジノ！？」
「なんで弁護人も驚いているんですか！」
「……し、失敬…」

　…なるほど、現場が「違法カジノ」というだけで、普通の弁護士は逃げているな。

「そうッス。金銭賭博場ッスね。主にポーカーや、バカラとかをやってたようッス」
「……むむ……なんと…」

（法廷記録に現場の情報をファイルした）

「証人、証言を続けて下さい」


「目撃者の通報があって我々は――」
「待った。その目撃者は何処にいるんだ。其奴を呼べば話は早いだろう」
「ふっふっふ」

　なんで得意げなんだ…亜内検事。

「勿論、後々ご登場願いますとも。まずは事件のあらましから。
　急いては事をし損じますぞ！我勢堂弁護士」
「…そうかい」

　目撃者については、今は聞くことが出来ないらしい。